日記帳スペシャル ベルギー&オランダへの旅 6

1999年3月19日(金)その2 ブリュッセルでギデ吹奏楽団を鑑賞、アントワープへ

 4日ぶりに湯船に浸かってリフレッシュ。7時にヤンがアントワープ・ヒルトン・ホテルまで迎えに来てくれる約束だったのだけれど、彼は20分の遅刻。ハイウェイが事故渋滞だったのだとか。ベルギー・ギデ吹奏楽団の演奏会は8時にブリュッセル音楽院で開演だ。「8時開演」は「8時15分開演」を意味する。なぜかベネルクスの演奏会は「○時15分開演」なんである。いずれにしても急がなければならない。

 ヤンはハイウェイを飛ばしまくる。開演時刻の8時15分にブリュッセルに到着。ところが駐車場所がなかなか見つからない。日本の都会と同じだ。ベネルクスではパーキングチケットが普及している。車を置いて良い場所では歩道がくぼんでいるのが日本とは違っている。

 王立ブリュッセル音楽院のホールに飛び込む。すでに開演していてドア越しにベルギー国歌を聞き、それから客席へ。プログラムは以下の通り。プログラムはフランス語とオランダ語の2つの言語で書かれている。

 憧れのベルギー・ギデ吹奏楽団。CDではお馴染みだけれど生で聴くのはもちろん初めて。予想以上の素晴らしさ。最高の技術、最高の歌心、最高のサウンド...すべてが最高! 文句なしに世界最高のバンドの一つであることを確信する。

 編成は充実している。少々の数え違いがあるかもしれないが...ピッコロ1、フルート2、オーボエ2、バスーン2、Ebクラリネット2、Bbソロ・クラリネット2、Bbクラリネット18、バス・クラリネット2、アルト・サクソフォーン2、テノール・サクソフォーン1、バリトン・サクソフォーン1、トランペット4、ホルン5、トロンボーン4、ユーフォニウム5、チューバ5、弦バス2、打楽器5。

 特にクラリネットとユーフォニウムとチューバが多いのだ。このバンドの重厚で気高いサウンドは編成によるものでもありそうだ。アルト・クラリネットはナシ。そしてコントラバス・クラリネットもナシ。低音フリークのヤンは「いつもコントラバス・クラリネットがいるのだけどな。病気で休んでいるのかな」と言っていた。

 「3つのダンス・エピソード」は実にノリが良く、サウンドも輝かしい。チェロ協奏曲ではバンドの編成が小さくなる。フルート、オーボエ、バスーン、クラリネット、トランペット、ホルン、トロンボーン各2、チューバ1、弦バス2、エレキ・ギター1、ドラムス1。チェロのソロはマリー・ハリンクというちょっとお転婆そうな感じの20代半ばの女の子。プログラムによるとヨーロッパはもちろん、アメリカやカナダでも活躍し、数々の入賞歴があるようだ。体は小柄だけれど音楽のスケールは大きい。実に素晴らしいチェリストだった。曲はお世辞にも品位のある音楽とは言えないが、ジャズ風あり、ロマン派風あり、ポルカ風あり...波瀾万丈のとても楽しい音楽だった。

 

 ここで休憩。いやはや王立ブリュッセル音楽院ホールはため息が出るほど美しいホールである。築後何百年も経っているのに総大理石の建物は目にまぶしいほど。ヤンと一緒にレセプション・ルームへ。ヤンはファンタ(珍しい)、私はコカ・コーラ。ヤンは口に合わなかったのか、半分くらいで飲むのをやめた。

 日本で吹奏楽の演奏会というと、たとえそれがプロの演奏会であってもお客さんはほとんど吹奏楽をやっている中学生や高校生だったりする。たまに大人がいても昔吹奏楽をやっていたという人だ。しかしこちらではオーケストラや室内楽の演奏会と同じ客層なんである。とかく「吹奏楽」がひとつの音楽ジャンルみたいにとらえられがちな日本と、単に「編成の一種」ととらえるヨーロッパ。もちろん正しいのは後者であるはず。

 「シシリア島の夕べの祈り」序曲には驚いた。序奏部は緊張感に満ち、主部は20人のクラリネットが一糸乱れずである。ヤンも絶賛。編曲者は不明。キーは原曲よりも半音上の f minor → F major だった。ヤンに聞くとギデは彼らのオリジナルのアレンジ譜をたくさん持っているのだそうだ。

 「カンタベリー・コラール」は恐ろしく遅いテンポ。この深みのある音楽をより味わい深く聴かせる名演。そしてメインの「モンタニャールの詩」は圧巻。ただしリコーダーのパートをダブル・リードで代用したのは残念だった。ヤンは「リコーダー奏者のギャラは高いからなぁ」と。(^-^;) しかし圧倒的な迫力に思わず目頭が熱くなった。ヤンに「どうだ?」と聞くと「素晴らしい。満足だ」と。

 

 ヤンはステージに手招きされて万雷の拍手を受ける。アンコールはマーチ1曲(曲名失念)とヤンの「リクディム」の終曲。マーチでのティンパニ奏者の古風な立ち回りが面白い。(^-^;)

 開演前に楽屋を訪れる予定だったのだけれど、それができなかったので終演後に指揮者ノルベール・ノジ氏を訪れる。ノジ氏はがっしりとした体格で威厳がある。私より背が低いのに姿勢が良いから見下ろされるような感じがする。

 今日の演奏会のための練習はたった2回だったと聞かされて驚く。「ギデのメンバーはとても譜読みが早いのだ」とヤン。明日はまた別の場所で別のプログラムの演奏会があるとのこと。忙しいバンドなんである。

 私の未出版のアレンジ、「G線上のアリア」と「トッカータとフーガ」と「スラヴ行進曲」を進呈。近々レスピーギの「ローマの噴水」を演奏するのだがあなたは編曲していないか?と聞かれる。私はないが、たしか木村吉宏氏が良いアレンジを持っていたはずと答える。木村氏のファックス番号を聞かれるがあいにく電子手帳はホテルに置いてきたので帰国後ファックスでお知らせする約束をする。

 ノジ氏夫妻、ヤン、私の4人でホール近くの店に飲みに行く。ノジ氏がオススメのレッフェ(黒ビール)を飲む。もちろんノジ氏もレッフェ。酒の話になる。私が「日本の酒は好きではない。ビールとドイツ・ワインが好き。ベルギーのビールはとても気に入っている」と言ったらヤンもノジ氏も「本当か?!」ととても不思議そうにしていた。ノジ氏もスモーカー。私がバストスを吸っているのを見てノジ氏驚く。マイルド・セブン・ライトを持っていたので1本進呈する。「うん、いいな」とノジ氏。

 ノジ夫妻と別れてヤンと店を出ようとすると偶然今日のチェロのソリスト、ハリンクが来ていた。名刺を交換して今後ファックスでコンタクトを取ることを約束。

 ヤンが再びブリュッセルのミニ観光に連れていってくれる。広場グランプラスへ。ライトアップされた建物の美しさに圧倒される。他にも車の中から王宮などあれこれ見る。

 アントワープ・ヒルトン・ホテルには午前1時に到着。明日から2日間は単独行動。ヤンと月曜日の再会を確認して別れる。

3月15日(月) ブリュッセルへ
3月16日(火) ルーヴェン レコーディング初日
3月17日(水) ルーヴェン レコーディング2日目
3月18日(木) ルーヴェン レコーディング3日目
3月19日(金)その1 ルーヴェンからコンティッヒのヴァン・デル・ローストの家、アントワープへ
3月19日(金)その2 ブリュッセルでギデ吹奏楽団を鑑賞、アントワープへ
3月20日(土) アントワープからアムステルダムへ
3月21日(日) アムステルダム
3月22日(月)その1 アムステルダムからヘーレンフェーンのデ・ハスケ本社へ
3月22日(月)その2 ヴァン・デル・ローストの家へ
3月23日(火) ブリュッセルから日本へ