日記帳スペシャル ベルギー&オランダへの旅 7

1999年3月20日(土) アントワープからアムステルダムへ

 せっかくアントワープに来ているのだけれど夜にはアムステルダムで演奏会を聞く予定だからあまりゆっくりはできない。8時に起床。アントワープ・ヒルトン・ホテルのレストランはガラス越しにノートルダム大聖堂を眺められるようになっている。窓際の席で朝食。何と贅沢な!

 アントワープ・ヒルトン・ホテルからノートルダム大聖堂までは徒歩2分ほど。まずはセルフタイマーで記念撮影。後ろに見えるのがノートルダム大聖堂、半分私の体に隠されてしまっているのがルーベンス像。

 ノートルダム大聖堂に近づく。私のデジカメではズームレンズを広角側いっぱいにしても到底撮影できるものではない。内部に入ってみようと思ったがあいにく葬儀が始まるところで入れなかった。嗚呼、扉の向こう側にはルーベンスの「キリスト降架」「聖母被昇天」「キリスト昇架」「キリスト復活」の4大作があるというのに。

 

 立派なリムジン車が入り口前に着く。中からはいかにも身分ありそうな紳士淑女が降りてくる。しばらくその様子を眺めることにする。葬儀の開始を告げるためか、重厚な音の鐘が長く打たれ続ける。言葉では表せない深い音。どんな音楽よりも説得力があるように感じる。考えてみれば当たり前のことだがノートルダム大聖堂とて一つの教会。お葬式だってやるのだ。単なる観光スポットとして訪れた私が不敬であった。一瞬だが「あいにく」と思ったことを反省。

 そのすぐ近所の市庁舎にも行ってみるが市庁舎前のマルクト広場は「あいにく」工事中。それでも建物は見事だ。

 以上でアントワープの観光は終了。アントワープにはたくさんの博物館や美術館があるのだが、それはまたの機会の楽しみにとっておくことにする。

 ホテルからタクシーに乗ってベルヒェム駅へ。こっちへ来て電車に乗るのは初めてだからちょっと緊張するが、無事に1等の切符を買ってアムステルダムに向かう。1460BF(約4800円)也。車窓からの田園風景が美しい。白樺も鮮やか。

 アムステルダムまでは2時間24分。車内販売のハムサンドとペプシコーラを買う。お釣りはベルギーのお金が良いか、それともオランダのお金が良いかと聞かれたのでオランダのお金で受け取る。さすがに国境を越える電車は面白いものだなぁと思ったが、後で考えてみれば少々の手数料を取られているようである。(▼_▼)

 午後1時40分にアムステルダム中央駅に到着。駅舎は東京駅のモデルになったもの。とにかく人が多い。そしてありとあらゆる人種が。さらに驚くのは白人の体の大きさだ。ベルギーではあまり感じなかったことだけれど、オランダの地元の人はとにかく体が大きい。後日ヤンにそんなことを言ったらヨーロッパでは北に行くほど背が高くなるのだと言っていた。太陽が欲しくなるから背が高くなるのかな。(^-^;)

 駅のGWKで米ドルのトラベラーズチェックをギルダーに両替する。列に並んでいたら黒人に道をたずねられた。をいをい、今初めてアムステルダムに着いたばかりの日本人に聞いてどうする。(^-^;) 私の順番になってトラベラーズチェックにサインをしているとき、ふと足下の荷物を見ると白い手が! まったく油断もスキもない。危うくカッパライに遭いそうになった。話には聞いていたが、アムステルダムは恐いところである。

 タクシーでミュージアム地区にあるヤン・ルイケン・ホテルへ。このホテルはデ・ハスケが予約してくれたものである(でも支払いは私)。コンセルトヘボウも国立博物館も近代美術館もすぐ近くだ。古風で瀟洒で小さなホテル。落ち着けそう。

 

 ホテルに入るといきなりフロントのオバさんに「ミスター・タカハシ」と呼ばれた。今日チェックインする東洋人は私だけだったのだろう。いきなり名前で呼ばれてとても嬉しかった。実は Voyage を持っていなかったのでチェックインがスムースにできるかどうか不安だったのだ。

 部屋は狭いが雰囲気が良い。バスタブはナシ。シャワーだけだ。寒い国だし日本人には辛いものがある。デ・ハスケに郵送してもらったホテルの案内には "Healthy Spa" と書いてあったが、それはオプションで金を出せば0階のサウナ室を使えるということだったのだ。結局このホテルに滞在中にそれを利用する客は一人も見なかった。

 オランダはチップの習慣がある。タクシーの運転手、部屋まで荷物を運んでくれた男にそれぞれfl.1渡す。まだギルダーを手にしたばかりなのでコインの見分けに慣れていない。間違えて高いコインや安いコインを渡してしまわないかちょっと緊張する。

 

 ミュージアム地区を散歩する。今夜行くコンセルトヘボウの場所も確認(写真左)。そしてファン・ゴッホ美術館に行ってみるが話に聞いていたとおり工事中で閉館。しかし国立博物館の方へ行ってみると、その裏側の一角に一時的にゴッホ美術館が移転していた。ここでもたくさんの桜の木(右の写真の左端にちょっと見える)。でもやっぱり花に勢いがない。

 入ってみる。なるほどファン・ゴッホの名作がいっぱい。そして一角にはファン・ゴッホとは別に掛け軸、仏像、鏡、能面など東洋美術が多数。たしかに素晴らしい。でも昨日までで物事に感動するということに慣れっこになってしまっているのか、深く感動するには至らない。どうしたことか? とまどう。ファン・ゴッホ美術館のショップは観光客でごった返していたので素通り。

 寒いので温かいスープを食べたくなった。夕食にはちょっと早いけれどイタリア料理店へ(なんだかこっちへ来てからイタメシが多い)。ミネストローネとスパゲッティ・シシリアーノを食う。冷えた体が温かいミネストローネに歓声を上げているよう。味はやや濃厚。ミネストローネに付いていたパンとガーリックバターがまた最高。スパゲッティ・シシリアーノはスパーシーで美味かった。φ(^_^) ウエイターは「気に入ったか? 辛すぎなかったか?」と。うーむ、確かに普通の日本人には辛いだろうな。でも「私にはちょうど良い」。

 アムステルダム駐在のビジネスマンらしい日本人3人組が入ってきた。大声で話をしていてまことにマナーが悪い。何だかその場に居合わせることが恥ずかしくなってきた。そこへたまたまウエイターに「あなたはどこから来たのですか?」とたずねられる。「日本から」と答えるのに抵抗感があった。何だか店に申し訳ない感じがしたので多い目にチップを置いて出る。考えてみれば、なんで私がチップを。(?_?)

 食事中に小雨が降ってきたのであわててホテルに戻る。疲れたので少し寝る。(-_-)゜zzz そしていよいよコンセルトヘボウへ。アムステルダム・トラムハルモニー吹奏楽団の演奏会だ。このバンドはオランダ語で "Symfonisch Blaasorkest De Amsterdamse Tramharmonie" という。詳しく訳せば「アムステルダム路面電車公社交響吹奏楽団」ってことになるかな。アムステルダムには「トラム」という公営の路面電車がありその職場バンドだが、一般市民も参加している。こういうバンドは日本にはないだろう。開演は8時15分。しかしなんでベネルクスの演奏会は15分始まりなんだろ。(?_?)

 コンセルトヘボウのチケット売場へ。デ・ハスケが予約してくれたチケットはちゃんとあった。ダメでもともとで「明日のコンセルトヘボウ管弦楽団のチケットはないですか?」と聞いてみるが、やはり「すでに売り切れです」。(;_;)

 「アメリカン・コンサート」と銘打ったプログラムの内容は以下の通り。プログラムはオランダ語のみ。指揮はヘリット・デ・ウェールト。情熱的な指揮をする人だった。

 彼らのWebサイトから想像していたよりも大きい編成バンドだった。フルート&ピッコロ4、オーボエ&イングリッシュ・ホルン3、バスーン2、Ebクラリネット1、Bbクラリネット19、バス・クラリネット2、アルト・サクソフォーン2、テノール・サクソフォーン1、バリトン・サクソフォーン1、トランペット5、ホルン4、トロンボーン4、ユーフォニウム3、チューバ2、弦バス1、ハープ1、打楽器6。

 昨日のギデと同様にアルト・クラリネットはない。弦バスは4弦だがアメリカのオーケストラでよく使われているマシン付きのもので低いCまで出せるようになっている。使っている楽器はかなりリッチ。日本の職場バンドの人が見たら羨ましがるだろうな。

 ステージ上に現れた楽員たちは客席の友達に手を振ったりで、ちょっとしたお祭りのノリ。客席からは楽員の名前を呼ぶ声援があったり写真を撮ったり。日本の職場バンドの演奏会の雰囲気と同じだ。しかし演奏が始まると楽員も聴衆もとてもマジメ。

 職場バンドとしてはかなり健闘しているが、日本のトップクラスの職場バンドほどの技術はなさそうだ。木管・金管ともに音程が悪いし金管(特にトロンボーン)の音色の荒さも気になる。出トチリも随所に。全体に音の整理が不十分なようで、主たる原因は音程にあると思う。われわれには常識になっている「アルメニアン・ダンス」の楽譜のミスもそのままだ。しかし表現力はある。コンクールで育った日本のバンドとは目指すものが違うのだ。聴き応えは十分。もちろんホールの残響と雰囲気は最高級! 特にリードの第5交響曲の第2楽章で奏されるあの「桜」のメロディーにはジーンとくる。しかしこの空間で「桜」のメロディーにある種の特別な感慨をもって聞いたのは私だけだったかも。

 彼らはバンドだけではなく、それに独唱やマイク付きのヴォーカルやダンスを加えた楽しいステージづくりをモットーとしているようだ。事実とても楽しめた。

 

 休憩時間に売店へ。大した物は売っていない。5線ボールペン(細い5本のボールペンが束になっていて5線が書けるもの。これは酒井格へのお土産になった)と可愛い鉛筆を見つけたので買う。あとで鉛筆のほうをよく見てみたら "Made in Japan"。ヤマハで売っているのと同じだった。よもやコンセルトヘボウの売店で日本製品に出会うとは! 油断だった。

 しかし昨日のギデといい、今日のトラムハルモニーといい、いずれも客層が日本と違うんである。ごく一般的な音楽ファンが音楽を楽しみに出向いているのだ。職場バンドだからもちろん仕事仲間も多いのだろうが、吹奏楽の演奏会というとその関係者ばかりが聞いているという日本の閉鎖的な吹奏楽事情とはだいぶ異なっているように思う。トラムハルモニーはさすがにコンセルトヘボウを満席にすることはできないわけだが、それでも6割くらいは入っている。アンコールはヒメネスの「アロンソの結婚」の間奏曲とプログラムの最後のウィズ。

 本当に楽しめる演奏会だった。アンコールの後は客席全員がスタンディング・オヴェイション。10時40分に終演。

 ホテルに戻る。徒歩5分というのがありがたい。デハスケは良いホテルを用意してくれたものだ。外を行き交う車のクラクションの音がやかましいが、楽しい演奏会の余韻に浸りつつ熟睡。

3月15日(月) ブリュッセルへ
3月16日(火) ルーヴェン レコーディング初日
3月17日(水) ルーヴェン レコーディング2日目
3月18日(木) ルーヴェン レコーディング3日目
3月19日(金)その1 ルーヴェンからコンティッヒのヴァン・デル・ローストの家、アントワープへ
3月19日(金)その2 ブリュッセルでギデ吹奏楽団を鑑賞、アントワープへ
3月20日(土) アントワープからアムステルダムへ
3月21日(日) アムステルダム
3月22日(月)その1 アムステルダムからヘーレンフェーンのデ・ハスケ本社へ
3月22日(月)その2 ヴァン・デル・ローストの家へ
3月23日(火) ブリュッセルから日本へ